酒樽屋日記

ライトノベル作家:樽見京一郎(艦船写真家:酒樽蔵之介)の駄文です

英国海軍戦艦HMSウォースパイト 小噺

今日はオフネの話。

その昔、英国海軍にHMSウォースパイトという戦艦がおりまして。

クイーン・エリザベス級のうち一隻として1915年3月に竣工。15インチ砲を主砲に採用した、所謂「超弩級戦艦」であります。

このフネ、二度の大戦を戦い抜きまして、とくにWWⅡでは数多くのエピソードがあり、敬愛を込めて「オールド・レディ」(老嬢)と呼ばれておりました。

1942年にインド洋で行動中の戦艦ウォースパイト(This is photograph A 11787 from the collections of the Imperial War Museums (collection no. 4700-01))

今日はそんな戦艦ウォースパイトの、エピソードの一つを。

時は第一次大戦。場所は英国海軍本国艦隊の本拠地スカパ・フロー

この港、魚類が豊富に回遊してくる場所でした。

スカパ・フローは、北海に面するオークニー諸島にございます。所謂「天然の良港」というやつ。

魚がよく釣れたんですね。

ウォースパイトの甲板でも、水兵が釣り糸を垂らすと見事に獲物が。

とくに鱈科の一種ポラックがよく釣れたそうでございます。

これを目撃したのが艦長。怪しからん、何をやっとるんだ!などと止めに入るのかと思いきや、営繕係に命じて丸い網を作らせました。

・・・あとはご想像できますね?

網を投じて、釣りどころか漁を始めてしまったわけでして。

ええ、もはや漁と呼ぶに相応しい。なにしろ

乗員全員分(約1000名)、魚料理を提供できるほど獲った

らしいのでございます笑。

すっかり少なくなりましたが、いまでも某国防組織海上支部などでは釣りを「F作業」と申しまして、一種の娯楽、気晴らしとして許可されることがあるようですが、ここまで豪快なのはちょっと耳にしたことがありません。

・・・察してみますに。

当時のスカパ・フローは、乗組員にとって決して居心地のいい泊地ではなかったそうです。なにしろ元はオークニー諸島の寒村。都会のようにパブがあるわけでもなければ、劇場やムフフなお店もありません(大戦中に、娯楽施設を慌てて作りはしたそうです)。

ドイツ帝国海軍と対峙を続け、明日をも知れぬ戦時下でもございます。

釣りと、この「漁」は乗組員たちにとって気晴らし、一服の清涼剤的な役割を負った貴重な娯楽でもあったのでしょう。

おまけに鱈は美味でもあります

残念ながら漁果がどのように調理されたのかは不明ですが、このころ庶民の味として普及したという、かの英国名物フィッシュ・アンド・チップスにでも変身したのなら、水兵たちもきっと大歓びだったはずです。

どっとはらい

 

今回の御話の、主な参考元はこちら。

戦艦ウォースパイト―第二次大戦で最も活躍した戦艦