今日はオフネの話。
その昔、英国海軍にHMSウォースパイトという戦艦がおりまして。
クイーン・エリザベス級のうち一隻として1915年3月に竣工。15インチ砲を主砲に採用した、所謂「超弩級戦艦」であります。
このフネ、二度の大戦を戦い抜きまして、とくにWWⅡでは数多くのエピソードがあり、敬愛を込めて「オールド・レディ」(老嬢)と呼ばれておりました。
今日はそんな戦艦ウォースパイトの、エピソードの一つを。
時は第一次大戦中。場所は英国海軍本国艦隊の本拠地スカパ・フロー。
この港、魚類が豊富に回遊してくる場所でした。
スカパ・フローは、北海に面するオークニー諸島にございます。所謂「天然の良港」というやつ。
魚がよく釣れたんですね。
ウォースパイトの甲板でも、水兵が釣り糸を垂らすと見事に獲物が。
とくに鱈科の一種ポラックがよく釣れたそうでございます。
これを目撃したのが艦長。怪しからん、何をやっとるんだ!などと止めに入るのかと思いきや、営繕係に命じて丸い網を作らせました。
・・・あとはご想像できますね?
網を投じて、釣りどころか漁を始めてしまったわけでして。
ええ、もはや漁と呼ぶに相応しい。なにしろ
「乗員全員分(約1000名)、魚料理を提供できるほど獲った」
らしいのでございます笑。
すっかり少なくなりましたが、いまでも某国防組織海上支部などでは釣りを「F作業」と申しまして、一種の娯楽、気晴らしとして許可されることがあるようですが、ここまで豪快なのはちょっと耳にしたことがありません。
・・・察してみますに。
当時のスカパ・フローは、乗組員にとって決して居心地のいい泊地ではなかったそうです。なにしろ元はオークニー諸島の寒村。都会のようにパブがあるわけでもなければ、劇場やムフフなお店もありません(大戦中に、娯楽施設を慌てて作りはしたそうです)。
ドイツ帝国海軍と対峙を続け、明日をも知れぬ戦時下でもございます。
釣りと、この「漁」は乗組員たちにとって気晴らし、一服の清涼剤的な役割を負った貴重な娯楽でもあったのでしょう。
おまけに鱈は美味でもあります。
残念ながら漁果がどのように調理されたのかは不明ですが、このころ庶民の味として普及したという、かの英国名物フィッシュ・アンド・チップスにでも変身したのなら、水兵たちもきっと大歓びだったはずです。
今回の御話の、主な参考元はこちら。